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労働条件を記載した書類が無く口頭説明のみ。どうすべきか?

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こんにちは。

社会保険労務士の玉上信明(たまがみのぶあき)と申します。

 

 いよいよ入社という時になっても、給与や勤務 時間等の労働条件について、書面を交付しない事業主がおられるようです。

これでは「実際に働き出してみると、入社前に聞いていた内容と異なる」など紛争になりかねません。

しかし、労働基準法では、労働者を守るためこのようなときの対応を明確に定めています。

 

この記事では、労働契約締結時に事業主からの交付が義務付けられている「労働条件通知書」について解説します。

 

今回のポイントを先取り

 

薬局など事業主が従業員を採用するときには、

「労働条件通知書」という書式で基本的な労働条件を明示しなければなりません。

入社後に労働条件通知書と待遇が異なっていた場合には、救済措置が明確に定められています。

募集時にも重要な労働条件の明示が義務付けられています。

 

労働契約締結時には労働条件を明示しなければならない

労働契約(雇用契約)は内定時に成立します。

場合によっては労働条件の詳細が内定時に確定していないこともありますが、

遅くとも入社時までには、労働条件は確定するはずです。

 

労働基準法では労働契約締結時に会社・薬局経営者等の事業主が労働条件を明示することを義務づけています。

「労働条件通知書」という書式が定められています。

労働基準法の大事な条文なので全文掲載します。その上で、順を追って説明します。

 

労働基準法の一部抜粋

労働基準法(太字は執筆者による)

 

(労働条件の明示)

第十五条

①使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

②前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

③前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

 

罰則

第百二十条

次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

一(前略)第十五条第一項若しくは第三項、(後略)

 

労働条件通知書で示される項目はこれ!

労働契約締結時に交付される「労働条件通知書」の記載項目は詳細に定められており、

書面での交付も義務付けられています労働基準法施行規則第5条1項、4項など)。

これに基づき「モデル労働条件通知書」の書式が示されています。

 

おもな項目は次の通りです。

・契約期間(有期契約・無期契約、有期の場合の更新有無など)

・就業の場所・従事すべき業務及びその変更の範囲

 (チェーン店などの場合に、例えば勤務地を○○県に限る、関東地区に限る、といった地域限定の希望があれば交渉して限定してもらうことができます。

当初の勤務地のみでなく、その後の異動の範囲も限定が可能です)

・就業時間・時間外労働の有無とその内容(例えば月20時間程度など)・休日・休暇等

・賃金(基本賃金・諸手当・割増賃金率・賃金締切日・支払日等)

・退職に関する事項

・臨時に支払われる賞与など

・社会保険・労働保険の加入

 

所定の労働条件の明示は事業主に課された法的義務です。

違反した場合には30万円以下の罰金が科されます。

 

事業主のなかには「当社では従来から労働条件通知書などは交付せず、信頼関係により対応している」等という経営者もいるようです。

これは罰則が科される犯罪行為なのです。明らかにブラック企業です。

 

労働局が配布しているパンフレットについて

事業主への注意喚起のパンフレットも参考に掲載します。

労働条件の明示を適切に行っていますか?

(労働条件の明示については、労働者に口頭で説明するだけでは足りず、記載された書面を見せるだけでも足りません。

定められた明示方法(書面交付、もしくは労働者が希望した場合に限り、ファックス、電子メールなど)で明示する必要があります。)

 

採用内定時遅くとも入社時までには、事業主には交付義務があります

「労働条件通知書を交付してください」とはっきり言ってください。

内定受諾前に労働条件を確認したいなら、「労働条件通知書を交付してください」と依頼しましょう。

いつまでも交付してくれないなら就職を考え直すべきです。

 

労働条件通知書と実際の労働条件が異なっていた場合の対応

「入社時には基本給25万円と聞いていたのに、『働きぶりが今一つだ』として23万円にされた・・」

「週休2日制と聞いていたのに、実際には土日出社を強いられた・・」

「勤務時間が8時間と聞いていたのに、実際には10時間働かされて割増賃金も払われない・・」

「勤務地は○○県に限るという約束だったのに、他県での勤務を命じられた・・」

 

労働条件通知書が交付されても、実際の労働条件が通知書と異なっていたら、労働者は即時退職することが認められています(労働基準法第15条2項)。

就業のために住居を変更していたなら、事業主には労働者の帰郷旅費を負担することが義務づけられています(契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合)(同3項)。

 

事業主が帰郷旅費を負担しないなら、これも30万円以下の罰金が科されます(労働基準法120条)。

 

労働条件の明示は募集時にも義務づけられている

このような労働条件の明示は、事業主が労働者を募集したり、職業紹介事業者に求人の申込みをする際も、義務づけられています。

求人広告のスペースが足りない等といった場合に「詳細は面談時にお伝えします」ということは許されますが、この場合も、次の対応が必要です。

 

・原則として面接などで求職者と最初に接触するまでに、全ての労働条件を明示する

・面接等の過程で当初明示した労働条件が変更となる場合は、変更内容を明示する

 

求職者としては、労働条件がすべて明らかになっているかどうかを、正式内定までに面接等の場で求人企業に確認しましょう。

このような基本的なルールも守れない会社・薬局なら就職先として相応しいとは言えないでしょう。

 

厚生労働省のパンフレットを参照してください。

求職者の皆さま 企業から受ける労働条件明示のルールが変わります!

 

ルールを守れない事業主の薬局などは就職するに値しない

労働基準法は弱い立場の労働者を守るために様々なルールを設けています。

これらは強行法規です。

事業主が勝手な思いで異なる扱いをすることは許されないのです。

強行法規も守れないような事業主の経営する薬局等への就職は、考え直すべきです。