【社労士が解説】「薬局や病院が退職させてくれない」どうすればいい?
こんにちは。
社会保険労務士の玉上信明(たまがみのぶあき)と申します。
薬剤師さんからのご相談で、「退職させてくれない」というのも多く見受けられます。
例えば、
・退職届を出しても捨てられてしまう。
・ともかく仕事を続けて欲しいと説教、説得される
・上司(あるいは本部)と相談するから待っていてくれと言われて、その後音沙汰がない
そんな時どうすればよいのか、解説します。
今回のポイントを先取り
1.事業主(法人・個人問わず)が従業員の退職を拒むことは一切できません。
「強制労働の禁止」として労働基準法で厳罰をもって規制されています。
薬剤師さんとしては退職の意思表示さえすれば、事業主の意向を問わず退職できます。
2.いやがらせを受けたらどうすればいい?
退職するときに事業主から嫌がらせを受けたり、不利益な扱いをされる可能性はありますが、ひるむことはありません。
公的機関への相談等の対処方法についてご説明します。
事業主が従業員の退職を拒むことは一切できません。
従業員が自分の意思で退職することを、事業主が拒むことはできません。
民法や労働基準法などで明確に定められているルールです。
無期雇用契約なら、従業員が退職の意思を会社に伝えれば、2週間後には退職できます(民法627条)。
有期雇用契約の場合は、原則として契約終了までは退職できませんが、労働契約期間が1年を超える場合には、契約の初日から1年以上経過していれば、事業主に申し出ればいつでも退職できます(労働基準法第137条)。
さらに、やむを得ない事情があれば、直ちに退職することも可能です(民法628条)。
退職を拒む職場は法令違反
退職したいのに、退職届を捨てられるなどというのは、パワハラどころか、強制労働そのものです。
直ちに退職することも可能と考えられます。
そもそも、退職届を破棄するというのは「私文書毀棄罪」という刑法上の犯罪にさえ該当しうる行為です(刑法第259条)。
すぐ後述の公的機関に相談した方がよいでしょう。
また「仕事を続けてくれ」などと、あれこれ説得されたり、「上と相談するから待ってほしい」などと言われても、応ずる義務はありません。
このような場合には、録音を残しておくのが望ましいのですが、たとえ記録がなくても、公的機関で事情を説明すれば、相談にのってくれるでしょう。
「どのような証拠を残すか」などとあれこれ悩むより、まずは公的機関に相談してみることです。
そもそも、事業主が従業員の退職を拒むのは、強制労働そのものです。
1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金という厳罰が科されます(労働基準法第5条、第117条)。
労働基準法の中で最も重い刑罰が定められているのです。
「辞めたら訴える!」は早急に公的機関へ
なお、「辞められると困る。損害賠償請求するぞ。」などと脅す事業者もいるようですが、このような損害賠償が認められることはほとんど考えられません。
退職届を頑として受け取ってくれない、といったときは、文書で「退職届」を提出します。
職場に持っていくのがためらわれるなら、内容証明で送るという方法もあります。
このような場合も、ひとまず公的機関と相談して対応した方がよいかもしれません。
事業主から不当な仕打ちや嫌がらせを受けたときの対応方法
このようにして何とか退職できても、事業主によっては、退職者に交付すべき書類を出してくれないなど、嫌がらせをしてくることもあるようです。
未払いの残業代などの問題もあるかもしれません。
ためらわず公的機関や弁護士に相談しましょう。
事業主が退職者に交付すべき主な種類
・退職証明書(書式例 厚生労働省「退職証明書」)
従業員の退職を証明する書類であり、労働基準法22条で発行が義務付けられています。
健康保険や年金の手続き、雇用保険の手続きに使うとか、転職先の会社から提出を求められることがあります。
退職者が請求すれば事業主は発行を拒めません。
退職者が求めていない事項を記載することも禁止されています。
・離職票
雇用保険の手続きに必要な書類です。
退職手続きの後、ハローワーク経由で会社から退職者に交付されます。
なお離職票の交付に時間がかかる場合もあります。
その場合に、前項の「退職証明書」を代わりに使うこともできます。
会社が離職票を交付してくれない場合や、離職票の記載内容に疑義がある場合には、ハローワークに相談しましょう。
例えば離職理由が「自己都合」になっていたが、実際はパワハラなどのやむを得ない事由で退職した場合などが考えられます。
離職理由によって失業給付(基本手当)の額に大きな違いが出ることもあります。
未払い残業代などの問題
従業員の退職を拒むような事業主なら、未払い残業代などの問題が発生しているかもしれません。
在職中にできる限り証拠を集めておいて、退職後でも公的機関等に相談しましょう。
有給休暇の使い残しがあれば、ためらわず使ってもよいでしょう。
事業主が従業員の有給取得を拒むことはできません。
【参考資料:公的な相談先など】
職場のトラブルの相談や、解決のための情報提供をワンストップで行っている機関です。電話でも匿名でも相談に乗ってくれます。お近くの相談先について地図をクリックして探すことができます。
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離職時の具体的な手続きが解説されていますので、参考にしてください。
退職者への損害賠償について、ご興味のある方は次の弁護士の解説もご一読ください。