【社労士解説】みなし残業制(固定残業代)の正しい取り扱いとは?
こんにちは。
社会保険労務士の玉上信明(たまがみのぶあき)と申します。
薬局の中には、賃金の提示が「みなし残業込み」になっているが、
「みなし残業時間を超過した場合にどのように支払われるのか教えてくれない」
というところもあるようです。
この記事でこの「みなし残業制(固定残業代・定額残業代)」の対応について解説します。
ポイントを先取り
今回のポイントは次の通りです。
1.みなし残業代(固定残業代・定額残業代)の取り扱いは、厚生労働省の指針で明確に決まっている。みなし残業時間を超えた分の残業代はちゃんと払ってもらえる。
2.賃金を高く見せかける等、不適切な取り扱いをする事業者も多い。
厚労省指針に基づいてしっかり説明を求めよう。
不適切な取り扱いが明確になれば、未払い残業代を想定以上に多く払ってもらえる可能性もある。
みなし残業制(固定残業代・定額残業代)の正しい取り扱い
みなし残業制というのは「一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対する割増賃金を定額で支払う制度」です。
簡単に言えば「時間外労働の有無に関わらず一定の手当の支給を保証する制度」です。
「みなし残業制」という言葉がよく使われますが、厚生労働省では「固定残業代」という言葉で制度内容を明確に定義しています。
なお「定額残業代」という人もいます。
残業代の支払われ方について
例えばみなし残業時間を月20時間とした場合、実際の残業時間が0であっても15時間であっても、20時間分の時間外手当(固定残業代)が支払われます。
実際の残業時間が20時間を超えて、例えば30時間になった場合は、20時間分の時間外手当(固定残業代)に加えて、超過の10時間分の残業代(割増賃金)が支払われます。
企業にとっては、求人の際に基本給に固定残業代を加えて提示すれば「高賃金」とアピールできます。毎月の残業代計算も効率化できます。
従業員にとっては残業を減らしても「固定残業代」はちゃんと払ってもらえるので、手取り賃金が安定します。
残業を減らして効率よく仕事をしようということで、生産性向上へのインセンティブにもなります。
間違った認識をしている会社の特徴
ところが、実際には、基本給を高く見せかけるために不適切な表示をするとか、実際の残業時間がみなし残業時間を超えても固定残業代以外は支払わない、いわば「定額働かせ放題」といった間違った運用をしている会社もあります。
「みなし残業時間を超過した場合に、どのように支払われるのか教えてくれない」
というのは、かなり怪しい取り扱いと思われます。
厚生労働省の対応について
このような問題を正すために、厚生労働省は2018年1月の職業安定法指針で、制度の定義を明確にしました。求職者向け、求人向けパンフレットで分かりやすく説明されています。
厚生労働省パンフレットより
「時間外労働の有無に関わらず一定の手当を支給する制度(いわゆる「固定残業代」)を適用する場合は、以下のような記載が必要です。①基本給 ××円(②の手当を除く額)
②□□手当
(時間外労働の有無に関わらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給)
③○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給」
(参考)
求職者の皆様へ~ 求人票・募集要項等のチェックポイント ~<職業安定法が改正されます>施行日:2018(平成30)年1月1日
労働者を募集する企業の皆様へ~労働者の募集や求人申込みの制度が変わります~<職業安定法の改正>施行日:2018(平成30)年1月1日
現在のパンフレットでも同様の記載が義務づけられています。
求人企業の皆さま2024(令和6)年4月1日施行 改正職業安定法施行規則 募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!
不適切な取り扱いをする事業者への対応方法
厚生労働省の指針やパンフレットを示して、事業主に次の点を確認しましょう。
就業規則の中でも固定残業代の取り扱いは明確に記載されている必要があります。
①固定残業代の内容:何時間分の残業(時間外労働)についていくらの金額なのか
②実際の残業が、固定残業代の元となるみなし残業時間を超えた場合、超過時間分の割増賃金はちゃんと払ってもらえるのか(基本給の25%以上の割増率が必要です)
証拠について
様々な事情ですぐ事業主と交渉するのがためらわれる(例えば退職時に未払い残業代としてまとめて請求したい)ならば、証拠を集めておきましょう。
タイムカード、雇用契約書、就業規則、給与明細、時間外労働申請書、実際の出退勤時刻のメモ(毎日、1分単位で正確かつ詳細に記載)、パソコンのログ(パソコンログは実際の作業開始・終了の客観的な記録になります)などは証拠として扱われる可能性が高いです。
事業者も気をつけなくてはいけない
なお、仮に事業主がみなし残業制(固定残業代)について、「定額働かせ方放題」などと思い込んでいると、裁判等でとんでもないしっぺ返しを食らうことになります。
裁判所で「残業代が全然払われていない」と認定され、残業代全額の支払いが命じられた例もあるのです。
次の厚生労働省パンフレットで裁判例も含めて紹介されています。
証拠をちゃんと集めて公的機関等と相談すれば、思いがけず多額の残業代(割増賃金)が得られることもありうるのです。
(参考)
固定残業代 を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。
【参考情報・もっと詳しく知りたい方へ】
みなし残業制(固定残業代)について、もっと詳しく知りたい方は次の記事を参照ください。
事業者向けの記事ですが、事業者と交渉するときにも役立つでしょう。
みなし残業制(固定残業代)のわかりやすい解説(人事労務担当者向け)(株式会社KiteRaの「キテラボ」に掲載)
【参考資料:公的な相談先など】
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