【社労士が解説】薬剤師が予想外の勤務地に配属されたときの対処法

こんにちは。
社会保険労務士の玉上信明(たまがみのぶあき)と申します。
全国に勤務地のあるドラッグストア等に入社された場合、予想外の勤務地への配属を指示されることがあります。僻地、離島と言ったこともあるようです。
こんなところに配属されるなら、そもそも入社しなければよかった、などと思う方もいるでしょう。
この記事では、このような「予想外の勤務地に配属されたときの対応」について解説します。
今回のポイントを先取り
1.入社時の就業場所(勤務地)やその後の変更の範囲は、募集時、採用時に明示されるルールになっています。
労働条件通知書記載の勤務地と実際の勤務地が異なる場合、直ちに退職することも可能です。帰郷旅費の請求もできる場合があります。
2.トラブルを防ぐ方法・問題が判明したときの対応策で特に大切なのは、応募から内定に至るまでに勤務地の希望を明確に示しておくこと。
注意点としては大手調剤薬局やドラッグストアにある、「全国転勤有」や「地域限定社員」で入社した場合、そちらで定められているエリアでの店舗配属となります。
例えば、「全国転勤有」の求人に募集・内定を承諾後に「○○県に配属になると思わなったので退職します」は出来る限り避けましょう。
後々の転職時にも職歴として残ってしまいます。
入社時の就労場所は募集時、採用時に明確に示される
2024年4月施行の労働条件明示ルールで明確にされています。
事業主は、募集時、採用時に入社時の就業の場所(勤務地)を明示しなければなりません。
2024年4月からは、入社後の就業の場所の変更の範囲も明示することになりました。
従事すべき業務についても同様であり、入社時の業務、その後の変更の範囲を明示しなければなりません。
すなわち配属先と異動の範囲を明記することが義務付けられているのです。
(参考)
求人企業の皆さま2024(令和6)年4月1日施行 改正職業安定法施行規則 募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!
(就業の場所、従事すべき業務の内容の部分は以下の通りです)
条件がある方は事前にきちんと相談
様々な事情で、勤務地や勤務時間等に制約のある人材がいます。
勤務地、職務、勤務時間を限定した「多様な正社員」について、労使双方にとって望ましい形で普及を図る、という政府の方針によるものです。
これまでも、入社時の勤務地・業務内容については明示が必要でしたが、今後は入社後の異動の範囲についても明示が必要とされたのです。
なお、仮に労働条件通知書で明示された勤務地・業務内容と、実際に入社したときの勤務地・業務内容が異なっていた場合には、直ちに退職することもできます。
就業のために住居を変更していたなら、事業主は帰郷旅費を負担する義務があります(契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合)。
(労働基準法第15条 違反時の罰則第120条)
トラブルを防ぐ方法・問題が判明したときの対応策
家庭の事情や本人のキャリア形成の希望、その他の事情で、一定範囲の勤務地限定などを求めるなら、その旨を応募から内定までの間に会社にはっきり伝え、内定時の労働条件通知書に明記してもらいましょう。
業務の限定等も同様です。
それに応じてもらえないのなら、入社するかどうか考え直すべきでしょう。
全国チェーン等なら、多数の人を採用し、会社の方針やチェーン店の希望等を考慮して配属先を決めます。
本人が希望をしっかり伝えていないと、会社として考慮もできません。
内定時や採用時の労働条件通知書(あるいは雇用契約書等)で僻地・離島とか遠隔地などが記載されているのを見てあわてても、対応は困難です。
内定時や採用時に示される労働条件通知書はしっかり確認
勤務地等について、入社時及びその後の変更の範囲について、希望通り記載されていれば、一安心です。
仮に希望通りになっていないなら、はっきり交渉して修正してもらってください。
採用担当者等が、口頭で
「一応会社の方針で一般的な内容を書いてあるだけです。ご自身の希望はちゃんと考慮しますよ」
と言われても、素直に信じない方がよいでしょう。
採用担当者としては内定に至った応募者を取り逃がしたくないので、リップサービスするでしょう。
しかし、採用担当者が勤務地などの最終決定権限を持っているわけではありません。
それこそ内定辞退・採用辞退も検討すべきです。
「配属先は入社後の研修後に本人と相談の上決定」
内定通知書や労働条件通知書に「全店舗の中で本人と相談の上決定」などの記載があり、それを承知で入社された場合はどうなるでしょうか。
ご自身が会社と相談して会社指定の配属先に合意したなら、双方の合意で労働条件が決定したのです。
あとで「これは困る」と言っても認められないでしょう。
内定や正式採用の前にしっかり希望を伝え、「その希望に応じてくれないなら入社を辞退する」という意思表示をしておくべきものです。
さらに、労働条件通知書の記載は希望通りなのに、実際に採用されたときに労働条件通知書と異なる勤務地などを指示されたら、労働基準法違反です。
前述のとおり、直ちに退職することも可能ですし、住居変更していたら帰郷旅費を負担してもらえることも一定範囲で可能です。
勤務地等について採用時に希望を伝え、会社も異議を唱えていなかったのに、会社が当該希望に反して配転命令を出したケースで、配転命令を無効とした裁判例もあります。
(参考)新日本通信事件(大阪地判平成9年3月24日労判715号42頁)
採用面接で、家庭の事情で仙台以外に転勤できない旨を伝え、会社も特に異議を唱えず。
その後に仙台から大阪への配転命令を出したが、裁判所は「勤務地限定の合意があった」として配転命令を無効とし、配転命令違反による解雇も無効とした。
(厚生労働省「多様な正社員の雇用ルール等に関する主な裁判例」21頁)
もちろん、「せっかく入社できたのだから、しばらく我慢しよう」とお考えになるのはご自身の判断です。
但し、現在の労働法や政府の方針は、諸般の事情で勤務地等を限定したい労働者の希望をできる限り尊重しようとしていることは、忘れないでください。
必要があれば公的な相談機関等に相談することも、ひとつの選択肢です。
主な相談先
【参考資料:公的な相談先など】
お近くの相談先は地図をクリックして探すことができます。職場のトラブル相談や、解決のための情報提供をワンストップで行っています。電話でも匿名でも相談に乗ってくれます。
夜間休日に電話相談に応じてくれる機関です。日中連絡しづらいならぜひ活用してください。
労働基準監督署は監督機関であり、多忙をきわめています。まずはじめは上記の総合労働相談コーナー等の相談専門機関に相談されることをお勧めします。